大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和50年(ラ)65号 決定

抗告人 株式会社小松屋

右代表者代表取締役 横井惣之助

〈ほか二名〉

右抗告人ら代理人弁護士 加藤謹治

相手方 株式会社 赤福

右代表者代表取締役 浜田益積

相手方 浜田総業株式会社

右代表者代表取締役 浜田ます

主文

本件抗告は、いずれも棄却する。

抗告費用は抗告人らの負担とする。

理由

一  抗告代理人は、「原決定を取消し、抗告人らの補助参加申立を許可する」旨の裁判を求めた。抗告人らの補助参加申出の理由(抗告理由)の要旨は、

(1)  抗告人株式会社小松屋(以下抗告人小松屋という)は、別紙物件目録(一)記載の物件を、抗告人横井惣之助は同目録(二)記載の物件を各所有しているところ、昭和四五年一〇月六日、同目録(一)については、その管理並びに処分を目的として、その所有者たる抗告人小松屋を、同目録(二)については、同様の目的で、その所有者たる抗告人横井惣之助を、各委託者、松浦産業株式会社(以下松浦産業という)を受託者、抗告人横井賢を受益者、信託期間を二年、信託終了のときは、右信託財産たる同目録(一)(二)の各物件(以下本件物件という)は現状のまま受益者たる抗告人横井賢に交付するなどの信託契約を締結した。そして該信託を原因とした本件物件についての所有権移転登記手続は、昭和四五年一一月九日受付第四一三八二号をもってなされた。

受益者たる抗告人横井賢は、右信託期間終了前に、その期間終了により信託財産たる本件物件の交付を受けるべき権利を、昭和四五年一二月一一日同目録(一)物件については、抗告人小松屋に、同目録(二)物件については、抗告人横井惣之助に各譲渡した。このことは、受託者たる松浦産業及び被告今岡三行らも承知していた。

然るに、右松浦産業は、前記信託契約にもとづく本件物件についての所有権移転登記が自己にあることを奇貨として、昭和四七年一〇月一二日、本件物件を譲渡担保のために売買を原因として、被告今岡三行に対して譲渡し、昭和四七年一二月一八日受付第四七八八七号にて所有権移転登記手続を了した。

被告今岡三行は、その後、原告浜田総業株式会社(以下原告浜田総業という)に対して本件物件につき、売買予約を原因として、所有権移転請求権の仮登記をなし、続いて昭和四八年三月二九日受付第一一六七七号をもって、所有権移転登記手続をなしたものであるが、かかる登記手続をとったのは、被告今岡三行の原告浜田総業に対する債務を担保するためであった。

かくして、本件物件は、抗告人小松屋、同横井惣之助から松浦産業、被告今岡三行を経て原告浜田総業に所有権移転登記手続がなされているが、前叙のように信託的に、或は債権担保のために、外部的にのみ所有権が移転されているものであって、これら物件の所有権は依然として、抗告人小松屋、同横井惣之助に帰属しているものというべきである。又抗告人横井賢も前記信託契約の受益者として、これら物件の交付を受ける権利を有する(抗告人らという場合、抗告人横井賢については、かかる立場にあるものとする。以下同じ)。

ところで、本訴、昭和五〇年(ワ)第二三四号貸金請求事件のうち、原告浜田総業、被告今岡三行間の訴訟(以下本訴訟という)は、本件物件を原告浜田総業が被告今岡三行から買受けて、その所有権が同会社に帰属していることが前提となっているから、本訴訟において、原告浜田総業の請求が認容されることになると、本件物件の所有権が、原告浜田総業にあることを認める結果ともなり、所有者たる抗告人らにとっては本訴訟の勝敗について、法律上、重大な利害関係を有するものというべきである。

(2)  本件物件は、右(1)に述べたような経緯によって、原告浜田総業に、所有権の移転登記手続がなされたものであるところ、被告今岡三行が債権者たる原告浜田総業に担保として提供した物件は本件物件を含めて、その時価一億八千万円位に達し、原告浜田総業の有する一億三千万円の被担保債権を優に超過するのであるから、同会社が担保の目的物を評価精算して右被担保債権に充当すれば、当該債権は満足を得て、消滅するのみならず、被告今岡三行としては、原告浜田総業に対して精算金返還請求権を有することとなる。

従って、本訴訟において被告今岡三行は、該貸金債権消滅の抗弁を提出できるにもかかわらず、右争訟の口頭弁論期日にも欠席して、その訴訟上の権利を行使しない。もし、このために、本訴訟において、原告浜田総業の請求が認容されて、本件物件の所有権が同会社にあることが認められれると、抗告人らが、別訴名古屋地方裁判所、昭和四九年(ワ)第二一三号原告株式会社小松屋、同横井惣之助、被告浜田総業株式会社、同今岡三行間の所有権移転登記抹消登記手続請求事件において、本件物件にかかる右浜田総業の所有権移転登記の抹消が不能に帰するおそれがあり抗告人らとしては、本訴訟における権利関係の存否について、法律上の利害関係を有するものである。

(3)  本訴訟において、原告浜田総業が、被告今岡三行に対し、訴求している金九、二一〇、一七二円の債権は、同会社が被告今岡より買受けた本件物件に、根抵当権者を津島信用金庫とする根抵当権が設定されてあったので、その所有権を確保するために、同会社において被担保債権を代位弁済して、その出捐分の償還を売主の被告今岡に求めているものであるところ、抗告人らは、別訴、名古屋地方裁判所昭和四九年(ワ)第一八一三号原告浜田総業、被告津島信用金庫外二名間根抵当権抹消登記請求事件(抗告人らは当該事件に補助参加をしている)について、本件物件の所有権が抗告人らにあることを前提にして右浜田総業に対して、根抵当権者津島信用金庫に債務金を支払わないようにかねて異議を述べていたにもかかわらず、原告浜田総業は、同金庫に当該被担保債権を弁済したものであって、本訴訟(前記昭和五〇年(ワ)第二三四号事件)において、原告浜田総業の請求が認容されることになると、本件物件の所有権が同会社にあることを認める結果となり、本訴訟の結果によっては、右別訴の根抵当権抹消登記請求事件についても影響を及ぼすものであるから、抗告人らにとって本訴訟の勝敗について、法律上、重大な利害関係を有するものである。

というに在る。

二  当裁判所の判断

(1)  抗告人ら主張の一、(1)(3)について。

補助参加が認められるためには第三者が他人間の訴訟の結果につき、利害関係を有する場合でなければならないことは、いうまでもないがここにいう利害関係というのは、第三者が他人間訴訟の判決主文で示される判断に、法律上の利害関係を有する場合でなければならない。仮に、抗告人ら主張のように本件物件の所有権が抗告人らにあるとしても、原告浜田総業、被告今岡間の売買契約が無効になるわけのものでもなく、又本訴訟における訴訟物たる権利(求償債権)の存否が抗告人らの主張する権利(本件物件の所有権)や、所有者としての法律的地位を決定する前提をなすものでないことは、右主張自体に徴して明らかである。

よって、抗告人ら主張の一、(1)(3)の理由をもってしては、本訴訟の結果について未だ法律上利害関係ありとはいえない。

(2)  抗告人ら主張一、(2)について。

抗告人らの消滅に帰したと称する原告浜田総業の債権は、被告今岡に対する貸金債権であり、一方本訴訟における訴訟物は前記のように原告浜田総業が代位弁済したことによる求償債権であって、前者の貸金債権と後者の訴訟物とは別個のものであることが、抗告人らの主張並びに本訴訟の記録に徴して認められるところであるから、本訴訟の結果如何によって、原告浜田総業の前記所有権移転登記の抹消登記請求権に消長を及ぼすものでないことは明らかである。

従って、一、(2)を理由とする補助参加の申立もまた本訴訟の結果に法律上の利害関係を有しないもので失当として許されないものといわざるを得ない。

三  以上の次第で、本件補助参加の申立を却下した原決定は相当であって、本件抗告は、いずれも理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 丸山武夫 裁判官 林倫正 杉山忠雄)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例